ジェイク・シマブクロ インタビュー
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Vol.2 すべての曲に深く根付くもの

――今回もいくつかのカヴァー曲が収録されていますが、曲を選んだ理由やアレンジについて教えてください。
「今回のアルバムでは、カヴァーが4曲ある。アデルの『ローリング・イン・ザ・ディープ』は本当に楽しかった。アデルの声が大好きだし、最初に聴いた時に、ウクレレで弾いたら楽しい曲だなと思ったのを覚えている。キーがCマイナーだから、曲が始まった時にすぐウクレレでどう弾くかイメージがわいて、オープンな3弦がCだから、それを使ってずっと低音を弾いて、アプローチはジョージ・ハリスンの『ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス』カヴァーと似ている。両曲ともCマイナーのアレンジメントで、その3弦を低音のベースラインとして使って、その上にメロディーを弾く。ただ『ジェントリー・ウィープス』はオープンな3弦でメロディーを弾くけど、全体の一部として弾いているような感じが強い。『ローリング・イン・ザ・ディープ』ではメロディーと低音を別々のパートのように弾いているので、このアレンジメントはもう少し指の独立性が強かったな。
 『オーヴァー・ザ・レインボウ』がおもしろかったのは、アランがレコーディングしてみたらと言っていたんだけど、前に弾いたこともあるし、レコーディングしたこともあった。この曲はあまりにたくさんのバージョンがあるから、一度原点に戻ったほうがいいと言われた。でもそれってどういう意味だろうと思ったら、彼は自分の部屋からオリジナルの『オズの魔法使い』のビデオを取り出してきて、これを観ようと言い出した。彼のリビングで二人で観て、ジュディ・ガーランドが『オーヴァー・ザ・レインボウ』を歌うのを聴いた。最後にこれを観たのは子供の時だったし、それからこの曲のさまざまなバージョンを聴いてきたけど、今回この曲の新しい意味を感じとることができた。映画を観ることで自分のアプローチや曲に対する感情が変わって、今まで何度も弾いてきたけれど、メロディーの弾き方も変わったし、原曲にもっと忠実になったと思う。二人でこのアレンジメントをどうしようかと話し合った時に、アランから『映画と同じようにオーケストラでやろう、そしてメロディーをジュディー・ガーランドが歌っているようにフレージングしてほしい』と言われて、僕も曲の仕上がりにはとても満足している。曲の感情も感じ取れるし、原点にかえったというところもとても気に入っている。
 スティングは僕の大好きなアーティストの一人で、アランも大好きだったから、最初にこのプロジェクトを始めた時に『スティングの歌はどう?』と提案してみて、スティングの曲をいくつも挙げた。以前にもスティングのカヴァーはしたことがあるけど、そのなかでアランが『フィールズ・オブ・ゴールド』を提案してくれた。その夜にウクレレを持って座ってどういう風にこの曲をやろうか考えたのを覚えているよ。カヴァーをする時は、メロディーやコードをただ弾いて曲がわかるようにするというだけではなくて、革新的でウクレレにしかできないアレンジメント、そして過去の自分のアレンジメントと違うものをしたいと思っているんだ。『フィールズ・オブ・ゴールド』の場合は、技巧的ハーモニクスがそのアイディアだった。曲の一カ所で3弦をフレットして、1、2弦でハーモニクスを弾くことですごくきれいなFメジャー7のコードができる。これは今までやったことがないことだったし、この曲のアレンジメントの核となった。これをアランの前で弾いたら彼も気に入って、これをレコーディングすることに決めた。レコーディングはサイモン・フィリップスとランディー・ティコという素晴らしいリズムセクションと一緒にやって、さらにアランもキーボードを演奏している。アランもアルバムで弾いてくれるなんて最高だよ。
 そして最後のカヴァーは伝統的なハワイアンの曲で、あらためて原点に戻るという意味で、このアルバムにとってなくてはならない曲だと思う。ウクレレを弾き始めた頃は、伝統的なハワイアンの曲を弾くところから始めたし、このアルバムは全曲をとおして、僕のウクレレに対する理解の進化を辿っていると思うから、アルバムの最後に伝統的なハワイアンの曲をもってくることで、さらにそれが強調されると思う。『アカカ・フォールズ』という本当にきれいな曲で、子供の頃からこのメロディーは取りつかれたように好きだったから、アランがストリングスのアレンジメントをして、ストリング・カルテットと一緒にレコーディングして、よりアルバムに納得できたと思う。スタジオでレコーディングした時は、ストリング・カルテットと一緒に円になって座って、彼らにマイク2本、僕にマイク2本、アンビエンスマイク1本で録って、お互いを見ながらアイコンタクトをとって演奏して、本当に素晴らしかった。たった3分か4分のことだけど5人で共有したその瞬間と経験を、この曲を聴くと本当に感じることができる。ここがウクレレでここがストリングスだという別々のパートとしてではなく、全体の結束感や一体感がこの曲を特別なものにしていて、それを感じることができるんだ」

――お父さんになって息子のために書いた曲もあると言っていましたが、お父さんになって環境が変わって音楽活動に影響していますか?
「父親になったことで人生が劇的に変わった。自分にとって、音楽は人間の感情を表現する言葉だと思っているし、自分が弾く曲はその感情を表現する手段なんだ。でも自分が経験したことしか表現することはできないから、だからこそ生きてできるだけ多くのことを経験することが大事だと思う。たとえば愛する人を亡くした時の激しい感情を経験することで、その感情を曲やパフォーマンスに注ぐことができる。初めての赤ちゃんが産まれた喜びは、逆の激しさをもつ感情であり、自分の喜びという感情を今まで以上に強い気持ちで表現できる。『ジェントルマンドリン』という新しい曲は、息子に触発されて作った曲で、ライヴで演奏する前に息子の話をするんだけど、彼の話をしだすとおもしろいことに、まるで自分が別人のように感じるんだ。お客さんに息子の話をしながら、息子との経験が脳裏に浮かんで、初めて抱いた時、初めて笑った時、初めてミルクをあげた時、さまざまな記憶を思い出して、曲を弾き始める時には気持ちがとてもいいところにある。自分がその曲を弾いているビデオを見たこともあるけど、自分で見ながらその瞬間何を考えているかもわかるし、彼のことを考えて弾いているから表情も自然と明るい。だからこの経験だけでも僕の音楽を大きく変えたし、自分が表現できる感情のレベルが増したと思う」

――どうしても日本ではジェイク・シマブクロ=ハワイというイメージが強い。ハワイ=ジェイク、ウクレレ=ジェイクという日本でのパブリックイメージに対して、自分のやりたい音楽とかを考えると、実は違うと思ったりしますか? 今回のアルバムがジャンルレスだから余計にそう思うのですが……。
「ハワイで生まれて育ったことはとても誇りに思っている。ハワイは大好きだし、ハワイを故郷と言えることも大好きだし、文化、食べ物も大好き。もともと伝統的なハワイアンミュージックを弾くことから音楽を始めたから、それが僕のルーツなんだ。ロック、ジャズ、ブルース、クラシックなどさまざまな音楽のスタイルを演奏していても、自分ではハワイアンミュージックを弾いているような気分なんだ。ハワイ出身でも毎日ハワイアンフードを食べているわけではなくて、ネイティブなハワイアンもお寿司、中華、タイ、フレンチ、アメリカンといろいろな食事をするけど、だからといって彼らがハワイアンであることには変わりない。音楽も同じだと思う。ハワイアンミュージシャンだけど、ハワイアンだけを聴くのではなくて、さまざまな音楽が好きだし、そういう風に文化的なるつぼであるところがハワイ独特だと思う。アジアやポルトガルからの移民や、アメリカ、ヨーロッパの影響も強いし、それは王様とイギリスとの繋がりがもとで、だからハワイの旗はイギリスの旗に似ているんだ。文化が混ざっている場所だし、音楽も同じだと思う。伝統的なハワイアンミュージックというと、チャントやネイティブなドラムビート以外のいわゆる“ハワイアンミュージック”と思われている音楽は、特に楽器は海外の影響が大きい。ウクレレもポルトガルから来ているし、ギターなど西洋の影響を見ることができる。ギャビー・パヒヌイやエディ・カマエなどハワイの素晴らしいミュージシャンを集めたサンズ・オブ・ハワイもジャズ、スウィング、ブルースの影響をハワイアンミュージックに紹介した。『ヒイラヴェ』など伝統的なハワイアンの曲を聴いていても、彼らが弾くストラムやリズムはスウィングのリズムなんだ。彼らが違ったスタイルの音楽を聴いてかっこいいと思って、外からの要素を伝統的なハワイアンの曲に取り込んだ。今聴くと、それを伝統的なハワイアンと思うけど、そこには海外からの影響もたくさんあった。それと同じで、自分は同じ人だけど、自分が知っていることに対して、外部からの要素を付け加えているんだと思う。だから、『アヴェ・マリア』のアレンジメントを弾いていても、自分にはビーチや夕日、あたたかい天気、あたたかい雨、滝、ノースショアなどが頭をよぎる。これは自分が弾くすべての曲に深く根付いている。どこかで音符やコードやハーモニーが少し違うかもしれないし、伝統的なウクレレの曲より少し複雑かもしれないけど、その感情と魂は同じなんだ。だからみなさんが僕をハワイと結びつけてくれることは誇りに思う。それが自分という人間だし、これからもそれは変わらないから」

――由紀さおりさんとのコラボレーションはどうでした?
「日本でのGUのリリースの話になった時に、ボーナス・トラックをつけようかと話していて、でもどうするかはまったくわからなくて、新しい曲を書くべきか、さまざまなアイディアがあったなかで、レコード会社の担当者が、すでにある曲に歌詞をつけて日本人のシンガーとコラボレーションをするというアイディアを提案してくれた。過去にも何度かシンガーと共演したことがあって、どれも本当に素晴らしい経験だったから、僕も興奮した。僕は自分が歌が下手だからか、歌手やヴォーカリストが大好きで、本当に尊敬しているし、特に女性シンガーが大好き。以前日本語の『一期一会』ということわざに触発されて書いた曲があって、それはそのレコード会社の友人に教えてもらった言葉で、一期一会の考えがとても好きなんだ。何年か前にレコーディングのプロジェクトで日本の素晴らしいポップソングをウクレレでアレンジして、それがとにかく楽しかった。もちろん日本で素晴らしい、不朽のメロディーがあることは知っていたけど、その時本当にそれを実感したんだ。その時に日本の曲のアレンジメントを何曲も終えて、自分でも曲を書きたいと思い、『一期一会』というタイトルにしたいと思った。このメロディーもコード進行も、すべてこの時にアレンジした曲にちょっとずつ影響されていると思う。だから『一期一会』をベースに、作詞家にジュンジさん(いしわたり淳治さん)とヴォーカリストに由紀さんというアイディアが出た時、そのコラボレーションは素晴らしいと思った。でもまだその時点では、実現するかどうかわからず、まだアイディアだけだったので、実際にスタジオで由紀さんとジュンジさんと、プロダクションに関わっているみなさんと一緒になった時は本当に感動的でした。最初に由紀さんがスタジオにいらした時、彼女は本当に忙しくて、その夜にライヴがあるにも関わらず、その前に一度スタジオに来て何回かレコーディングして、ライヴを終えてからまたその日のうちにスタジオに戻って来てレコーディングしたんだ。彼女の仕事に対する姿勢や完璧に仕上げたいという気持ちにとても感動したよ。だって日本では伝説のような人だし、本当に素晴らしいキャリアを築いた人だから。それも日本だけではなく、たしかピンク・マルティーニともプロジェクトをやったり、素晴らしいツアーをしたり、そんな彼女と一緒にスタジオに入ることができて、スタジオでの仕事振りや仕事に対するプライドを間近で見て、素晴らしい人なんだと知った。こんなに一生懸命働かなくてもいいと思うのに、一生懸命働いているのは、彼女は音楽が大好きで、とても情熱をもっているからだと思う。若いアーティストにとってそれは本当に励みになるし、彼女のような人がいてくれるから目指すところができる。だから由紀さんとコラボレートできたことは本当に光栄で、スタジオでも見事に彼女の曲の解釈やご自身の要素を加えてくれて、それが本当に大好きだった。とても美しいコラボレーションだったし、この経験はまさに一期一会だった」

――最後に日本のファンへメッセージをください。
「いつも応援ありが とうございます。また日本でみなさんに会えることを楽しみにしています。ジェイク・シマブクロでした。よろしくお願いシマブクロ!」

『GRAND UKULELE』JAKE SHIMABUKURO

SICP-3734/5 【初回生産限定盤/DVD付】¥3,150

SICP-3736 【通常盤】¥2,835


【収録曲】
1.Ukulele Five-O/ウクレレ・ファイヴ-O
2.Rolling In The Deep/ローリング・イン・ザ・ディープ
3.Gentlemandolin/ジェントルマンドリン
4.More Ukulele/モア・ウクレレ
5.Missing Three/ミッシング・スリー
6.Music Box/ミュージック・ボックス
7.143
8.Over The Rainbow/オーヴァー・ザ・レインボウ
9.Island Fever Blues/アイランド・フィーバー・ブルース
10.Fields Of Gold/フィールズ・オブ・ゴールド
11.Gone Fishing/ゴーン・フィッシング
12.Akaka Falls/アカカ・フォールズ
13.一期一会~ONE WISH (日本盤ボーナス・トラック)

詳しくはこちらをご覧ください。

 

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