関口和之 インタビュー UKULELE CARAVANとは
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関口和之さんの約4年半ぶりのオリジナルアルバム『Ukulele Caravan』が完成! バリエーション豊かな全10曲中、オリジナル楽曲が9曲、また8曲が豪華ヴォーカリストによるヴォーカル楽曲という、これまでのウクレレアルバムのイメージを一新するような作品に仕上がっている。この新作について関口さんに話を伺った。

Text : Masumi Nakajima

移動遊園地のようなウクレレキャラバン

――楽曲も参加ミュージシャンも非常にバリエーション豊かで、ヴォーカル入りのオリジナル楽曲が8曲と、これまでのウクレレアルバムのイメージを一新するような内容ですね。
「今までウクレレアルバムというと、インストでカヴァー曲中心みたいなイメージが強かったと思いますが、今回はちょっと違うものを作りたくてたくさん曲を書き下ろしてみました」

――関口さんのなかで最初の青写真はどういうものだったんですか?
「タイトルのままですが、“ウクレレキャラバン”というコンセプトがありました。地方で野外のコンサートをたくさんやりたいと思っていて、ただ演奏するだけじゃなくてパッケージごと行けたら面白いと思ったんです。そこには食べもののお店もあり、ハワイ雑貨のお店もあり、ウクレレのワークショップもやっていたり、まるごと移動遊園地みたいだと面白いな、と。そしてそのステージではどんな曲が演奏されるだろう? という妄想に近いようなものから始まったんです。どういうタイプの曲があったらいいかと、曲のイメージをリストアップしてみました。親子で楽しめる曲やみんなで弾ける曲とか、とにかく盛り上がる曲とか」

――その時点でいろんなタイプの曲を詰め込んだアルバムにしようということだったんですね。
「そうですね。ただその時点ではまだヴォーカルのことは全然考えていなかったんです。とにかく妄想は広げるだけ広げて、作っていくうちになんとかなるだろうと」

――曲を作ってからヴォーカリストを探したんですか?
「曲によって作り方は違うんですけど、MONGOL800のキヨサクくんやYOUさんなどは曲ができてからお願いしましたね」

――YOUさんはFAIRCHILD時代に『ウクレレ』っていうアルバムを出していたそうですね。
「そうそう、面白いコンセプトのアルバムだったのでいろんな意味で参考にさせていただいていました。普通にレコーディングした曲と曲の合間にオープンエアでウクレレの曲を挿し込んでいるんです。日本ではウクレレという楽器がまだ珍しかった時代のアルバムです」

――YOUさん自身はウクレレを弾くんですかね?
「そういえばそういう話は一度もしたことないな……(笑)。でも彼女にウクレレは似合いますよね」

――そしてビックリなのが大貫妙子さん。
「僕自身が一番ビックリだったんですけど(笑)、この「風待つ林に」という曲に関しては“作ってやろう”というよりも“できちゃった”曲なんです。できていく過程の中で大貫さんタイプのヴォーカルの曲だろうとは思っていたんですけど、まさかご本人に引き受けていただけるとは……。おかげさまですごく豪勢なアルバムになりました」

――大貫さんの声とウクレレとは意外な組み合わせですが、すごく美しく仕上がっていますよね。
「青柳拓次くんならではのアレンジで、奥深くに狂気みたいなものがあるというか、ヨーロッパっぽい雰囲気があります。ジブリっぽいという人もいるし」

――なるほど。そして最後の曲「あたたかな春の日に」では原由子さんがヴォーカルですね。
「この曲は卒業をイメージした曲で、木造の校舎でオルガンを弾きながら歌っているイメージだったので、歌は絶対に原坊だな、と。原坊の声はそれだけで世界ができあがるから、強力な武器だと思うんです。でも近すぎてちょっと頼みづらかったんですけどね(笑)」

――アレンジはYANAGIMANと小倉博和さんによるものが多いですね。
「この二人はあれやこれやと言いながら作りやすいんです。よく知らない人だとある程度任せなきゃいけないかと思ってしまうんですが、この二人は僕のことをよくわかってくれているので、お互い意見を言いやすいですね」

――どういう曲はYANAGIMANがいいとか小倉さんがいいとかありますか?
「ちょっとアーシーな感じの曲は小倉くんがピッタリで、弦楽器以外の面白い音を入れたいときはYANAGIMANのアイディアを期待することが多いです。たとえば『夏のBaby~迷子に御用心』は80年代のAORっぽい曲ですけど、ベースを打ち込みにするなど現代風の味付けはYANAGIMANならではですね」

普通のポップスとして聴いてほしい

――さまざまなタイプの曲でウクレレを弾いてみて、新たな発見はありましたか?
「今までAORにウクレレを使うのはなかったと思うんですよね。歯切れ良く弾くリズムパターンを考えたり、ソリッドなウクレレを使ってファンキーに弾いてみたりと、曲に合わせていろいろ試して面白かったですね。いつもスタジオにウクレレを6、7本揃えて、いろんなウクレレで弾いてみたりしました。一番多く使ったのはカマカのコンサートサイズのカスタムウクレレで、僕が“1号”と呼んでいるもの。あとはマーティンのチェリー材でできたソプラノウクレレとか。アヌエヌエのソリッドU900エレキウクレレはアップテンポの曲によく使いました」

――最初の曲「TAHITI」ではどんなウクレレを使ったんですか?
「ウクレレはカマカ1号とタヒチアンバンジョー。パーカッションにはトエレというタヒチの打楽器を使ってみました。普通の使い方とは違うのでわかりにくいかもしれませんが、イントロの音がタヒチアン・バンジョーです。遠くでアンビエンスとして鳴っているのがトエレ。1920~30年代にハワイアンブームがありましたが、その頃はN.Y.の作曲家たちが行ったこともないハワイを想像しながら曲を作っていたそうなんです。そういう感じで曲が作れたら面白いと思って、行ったこともないタヒチを想像しながら作ってみました」

――その発想が面白いですよね。
「ハワイにはよく行くんですけど、その先にあるタヒチには行ったことがなくて。ハワイのルーツはタヒチにあるという説もあるので、そういう意味でも面白いかと思いました。この曲が僕のタヒチのイメージなんです。実際と違っていたらごめんなさいですけど(笑)。あと50年代の終わりに流行ったエキゾチック・ミュージックというハワイ発信の音楽があるんですが、その要素もちょっと取り入れています」

――大貫さんとの「風待つ林に」ではどんなウクレレを?
「最初は青柳くんのアレンジに期待していたんですけど、彼が作ってくれた音源にはウクレレが入っていなくて、『関口さんが好きなように弾いてみてください』って(笑)。ソプラノのウクレレでアルペジオをたくさん使いましたけど、けっこう上手くいったんじゃないかな」

――スティールギターとのインスト曲「ほのか」では?
「僕が大好きなTV番組『ちい散歩』のテーマソングで、ウクレレでやりたいと思っていた矢先に地井さんが亡くなってしまい……。あの番組は永遠に続くように思っていたので、もう観られないなんて信じられないですけどね。原曲のイメージを壊さないことと、音だけで気持ちいい取り合わせでやりたいと思っていて、ウクレレとギターとラップスティールという三つの楽器で録りました」

――ではウクレレを弾くのが一番難しかった曲は?
「最後の原坊との曲『あたたかな春の日に』かな。ピアノだけで完結しちゃう曲調なので、そこにウクレレをどう組み合わせるか、ちょっと悩みました。でもピアノとウクレレって、使い方によってはいい感じにハマるということがわかりましたね」

――「天国行きのバス」での関口さんのヴォーカルも聴きどころですね。
「いや~、歌は自信がないのでどうしようかと思ったんですけど……こんな曲をまさか僕が歌わないだろうという曲で歌っているので、その意外性でちょっとウケてもらえれば拙さはちょっと隠せるかもと(笑)」

――アルバムを作り終えた手ごたえは?
「今まではどうしてもウクレレって隙間産業的な感じがあって、いわゆるポピュラーミュージックの中のヒットメーカーや大御所たちの隙間にあって、彼らではできない音楽をやるというイメージでいわゆるラウンジ的な音作りをしてきたのですが、ウクレレでそうでないものを作ることができたと思います。今まではラジオ番組に出演した際などに、“これはウクレレの曲で、ウクレレとはこういう楽器で、こういう魅力があってこういう聴き方をして欲しいんです”というところまで一通りの説明をしないといけないようなところがあったんですが、このアルバムは説明しなくても、僕がいなくてもかけてもらえるような曲になったんじゃないかと思います。そういう手ごたえは感じています」

――ウクレレが主役ではではなく、まず曲ありきで、そこにウクレレが入っているということなんですね?
「はい、普通のポップスとして聴いてもらえる曲にしたかったので、より多くの人々に、年配の方から子どもまで聴いてもらいたいと思っています。ここ数年“ケイキ・ウクレレ・オブ・ジャパン”という子どもたちがウクレレを弾くプロジェクトを手掛けているので、子どもたちにもちょっとウケるものを作りたいと意識はしましたね」

――今度ケイキのみんながイベントで演奏するときに「ウクレレ踏んじゃった!」とか「ウクレレキャラバンのうた」などはぴったりですね。
「彼らが弾いて歌ってくれたら嬉しいですね。このアルバムはウクレレ好きの人が聴いたら“ウクレレってこんな使い方があるんだ!?”と思ってくれる部分もあるでしょうけど、ニュートラルな気持ちで、普段の生活のなかで聴いて楽しんでもらえたら嬉しいです。ただアレンジもしっかり考えて、リズムもきっちりしているんですけど、あらためて聴いてみるとウクレレという音の性質なのか、なぜかゆるくなるんですよね」

――そこがウクレレならではですね。このアルバムを引っ提げてキャラバンのようなライヴをする予定は?
「やりたいです。ただ全員が揃うのはたぶん不可能なので(笑)、その時々で参加できる人に来てもらって、ゆるい感じのキャラバンでいこうと思っています」


(VICL-63910)¥2,500(税込)
『UKULELE CARAVAN』関口和之

“一晩にして田舎町の広場に出現するワンダーランド、そんな移動遊園地さながらにウクレレの楽しさを詰め込んだキャラバン隊がいろんな街を旅して回るような”イメージを元に制作された今作では、ウクレレのすべてを知り尽くした“ウクレレマイスター”関口和之がさまざまな角度から全曲に渡りウクレレをフィーチャー。ゲストヴォーカル、サポートミュージシャンなど、総勢20名を超える豪華メンバーが参加!! 豪華絢爛な“キャラバン隊”ともいうべき強力な結び付きによって完成された、これまでのウクレレアルバムのイメージを一新する珠玉の一枚!!

詳しくはこちらをご覧ください。

【収録曲】 
1. TAHITI/キヨサク(MONGOL800)
2. ウクレレキャラバンのうた/つじあやの&関口和之
3. 夏のBaby~迷子に御用心~/黒沢 薫(ゴスペラーズ)
4. ウクレレ踏んじゃった! /YOU
5. ほのか/関口和之&田村玄一 ※テレビ朝日「ちい散歩」テーマ曲BIG BELL「ほのか」カヴァー
6. 口笛吹きと仔馬/くちぶえ:分山貴美子
7. 5963 ロックンロール/関口和之&ウクレレ☆エルヴィス、PAITITI(洞口依子・石田英範)、勝誠二
8. 天国行きのバス/関口和之
9. 風待つ林に/大貫妙子
10. あたたかな春の日に/原 由子(サザンオールスターズ)
 

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